第一線で活躍する先駆者たちの人生の断片に触れ、その思考を覗き、新しいステップへ繋がるインスピレーション(閃き・刺激)の種を発信するコンテンツ『INSPIRATION』。彼らはどのようにものを考え、自分や目の前に広がる世界と向き合ってきたのでしょうか? 第1回目は、2019年から学展の審査員もお願いしている、「七種諭(さいくさ・さとし)」氏が登場します。
パリを拠点に活躍するフォトグラファー/ギャラリスト/アーティスト。これまで、Vogue Paris, Numero, i-Dなどの世界的ファッション雑誌やEstee Lauder, YSL, Shiseidoなどの有名メゾンの広告撮影などを手掛ける。また著名人のポートレイトも多く撮影しており、アーティストやセレブリティーの間でも高い評価を得ている。2010年には、パリにギャラリー「Da-End」をオープン。ギャラリストを務めながら、自らも作家として創作活動を行っている。
フランス・パリを拠点に世界的に活躍するフォトグラファー、七種諭。2019年度より審査員として学展に参加している同氏は、元々はヘアメイクアップアーティストとして活動していた。ある時「今しかない」と一念発起、フランスのパリでフォトグラファーへ転身したという。
現在は、自身がオーナーを務めるギャラリー「Da-End」を運営し、ギャラリスト兼アーティストとして、その活動の幅を広げている。七種さんがどのように人生を切り拓いてきたのだろうか。
「他人とは違う物、新しい物。違う自分になれる物。そんないろんな物と出会える"モード"の世界がとても好きで。15歳の夏に父が他界して、経済的にも自立をしなければならなくなったのですが、好きな"モード"に関わる仕事をしたいという思いと、人の"顔"自体にも興味があったので、ヘアメイクアップアーティストの道を選びました」。
その後、プロのヘアメイクアップアーティストとなり、雑誌や広告撮影、ファッションショーなどで仕事をしていたが、海外生活への興味が湧き立ち、『今しかない』とフランス・パリへ飛んだという。その時は半年程度の滞在のつもりが、30年を過ぎた今も続いている。「パリに来てからは、純粋にカルチャーショックを楽しんでいましたね。ヨーロッパのいろんな国を訪れて、文化の違いなんかをスナップショットにおさめたりして。フィルムカメラで撮影してたんですが、その頃から友人に教えてもらったりしながら、独学で写真技術を学んでいました」。
ある時、『帽子』を題材にして、海岸にいるスイミングキャップを被ったおじいさん、男友達のハットを被ったポートレート、帽子の静物写真などを収めたポートフォリオを作成し、とあるエージェントに見せることで写真家のしてのキャリがスタートする。「『面白いね、ポートフォリオを預からせて』と言ってくれて。そのことをきっかけに、プロとしてお仕事をいただくようになりました」。写真家としての活動を始めて1年足らずで、『VOGUE ITALIE』の表紙撮影を任される。その後現在に至るまで、VOGUEやELLE,i-Dなどの世界的ファッション誌、Estee Lauder, YSL Perfume & Beauty, 資生堂といった有名ブランドの広告撮影、 Angelina Jolie, Kiera Knightleyをはじめとするセレブリティのコーポレート撮影等、パリを拠点に世界的な活躍を見せている。
Suzu Hirose
Nicki Minaj(red) / Rihanna(white)
2010年、パリのサン=ジェルマン地区に、七種氏自らがオーナーを務めるギャラリー『Da-End』をオープンする。従来のギャラリーとは異なり、訪れた人同士のコミュニケーションを重視したコンセプトで、どちらかというと"サロン"に近いスペースだという。ダークトーンがベースの重厚感ある空間は、実験的ではあるが、作品の世界に没入しやすい空間づくりがされている。「クライアントワークから離れて、原点に帰って好きなことができるスペースがあれば、色々な人とコミュニケーションがとれていいなと思ってギャラリーを始めました。アーティストやそれに関わる人たち同士も交流ができる場所にしたかったんです」。
Da-Endで展示を行うアーティストは、じっくりと時間をかけ、作品やアーティストの人柄を理解した上でセレクトしている。「まず視覚的に惹かれる作品かどうかを見る。気に入った作品があれば、作家をギャラリーに招いて顔をあわせて話をします。アトリエにも訪問させてもらって、制作スペースを見せてもらいながら、"どういう人物なのか"を時間をかけて理解します。フィーリングが合えば、グループ展を試してみて、その後個展を開くという流れですね。作家とは長くお付き合いをしていくものなので、人柄やフィーリングが合うかどうかが大切だと思っています」。
Galerie Da-End(日本語で«楕円»を意味する)は2010年の夏、パリ・サン=ジェルマン=デ=プレにオープンしました。従来の«white cube(白く四角い空間)»から取って代わったものは、時代を超越した空間です。そこはライトに照らされた四角い部屋で、梁などで装飾されおり、他に類を見ない体験ができる現代的でアーティスティックな光景が広がっています。
このギャラリーは実験的な空間であり、様々なものが混じりあった空間となっていて、訪問者をわくわくさせ驚嘆させるような場所なのです。このギャラリーの重要なポイントは、シノグラフィーとキュレーションです。つまり、初めて行く旅行先と不思議な空間との狭間にいるような雰囲気が味わえる、芸術作品を読み解き、深く理解するようにどっぷりとその空間に浸れるような場所になっています。
ギャラリーの開館以来、既に名のあるアーティストや国際的な新進気鋭の作品などをずっと応援してきました。それぞれの分野における専門家や、独学でやってきた人、俗世を離れた人など…多種多様なアーティストが視覚的にも分類できない世界、破壊的でありつつ、強烈な表現力を持つ世界を共有しています。
ギャラリー空間での対話、そしてアーティストとそこを訪れた人たちは、不思議な美の世界を探求し、明確なテーマから導かれてこの場所にきているのです。個展は別として、2つの合同の展示を開催しているので、一年をテンポよく進めてくれます。春には、現代アートのコレクションと古来の部族アートなどを展示することにより、伝統的なものへ再度目を向けようというテーマでの展示をしています。そして、秋には厳選した至高の日本の写真を展示します。
Galerie Da-Endは、感情と視覚的な詩という観点で作り上げるこのギャラリーだけの特別なイベントを開催していく予定です。展示会を通しての主な目的は、繊細な力を目覚めさせ、精神的なものと地理的な境界線をなくしていくようにすることです。
The Galerie Da-End (« Oval » in japanese) has opened its doors during the summer of 2010, in the area of Saint-Germain-des-Prés. Conceived as a frank alternative to the traditional « white cube », it is a timeless abode traversed by fourdim-litted rooms, decorated with beams and trims, offering a singular experience in today’s artistic landscape.
The gallery sees itself as an experimental and hybrid place, both inspiring for the exhibiting artists and surprising for the visitors who venture there. Key points in the gallery’s artictic project, the scenography and curation – somewhere between initiatory trip and room of wonders, invite to a nearly immersive stroll as well as an active reading of the artworks.
Since its inauguration, the Galerie Da-End has been supporting the work of international emerging or confirmed artists. Virtuoso technicians each in their field, sometimes self-taught or in break with their time, all of them share a visually unclassifiable world, even subversive, with a strong power of expression.
The dialogue initiated between the gallery space, the artist and the visitor is lead from precise thematics that reveal or interrogate the troubled beauties of the world.
Aside from solo exhibitions, two cycles of collective exhibitions give its tempo to the artistic season : in the spring, the Galerie revisits the traditional cabinet of curiosities by presenting a selection of contemporary artworks, confronted to genuine ancient or tribal art. And in the fall photography, and more particularly Japanese photography, is given pride of place.
Eschewing the conceptual museographic apparatus in vogue, the Galerie Da-End intends to offer singular events in which emotions and visual poetry take precedence over every other discourse. From exhibition to exhibition, the main objective is to awaken sensitive areas and to suppress the frontiers, both mental and geographic,between the genres.
The photographer Satoshi Saïkusa and Diem Quynh opened the Gallery Da-End in 2010.As a clear alternative to the traditional white cube, the space is a singular residence lit in chiaroscuro,inspiring for the artists who exhibit there and striking for the visitors who venture there. The scenography,highlight of the artistic project and rigorously conceived for each exhibition, between light and shadow,invites visitors to immersive strolls and an active reading of the works.
「ヨーロッパでは、水曜の午後は学校が休みです。水曜の午後や、週末の時間を利用にして、ピアノやダンス、絵を習いに行ったりするんです。日本では、学校の音楽や美術の時間は削減され、放課後にわざわざ学校の勉強をしなおすかのように、塾へ行くシステムですよね。ヨーロッパでそういう仕組みがあるところは、ほとんどないのではないかと思います。私は、音楽、美術、文学などが、奥行きのある人を作ると思ってるので、やはりヨーロッパは文化に対する考えに、のりしろが広いという感想を持ちますね。学展には、日本の教育システムではできない部分の、開かれた幅広い活動を行なってほしいと思っています」。
これからの学展について聞くと、こう答えてくれた。「現在のシステムに加えて、新しい発表、展覧会の機会を作ってはどうでしょう? テーマを決めた展覧会、東京だけでなく地方都市での開催、パリなど国外での展覧会とか。文化の違いなどを情報として理解するのも大切だと思いますが現在の情報過多の中でこそ、特に人と人の交流の大切さと、実際に他の国、土地、自然、環境、文化の違いなどを実体験するのは大きなインパクトがあるのでないでしょうか? その経験は改めて自国の自然、文化の重要さ、大切さを理解することにもなるかと考えます」。
INFORMATION
Address:17 rue Guénégaud 75006 PARIS
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