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INTERVIEW

最優秀指導者賞インタビュー
最優秀指導者賞インタビュー

銭湯のような教室で
生まれる絵

銭湯のような教室で生まれる絵

アトリエ一番坂
舘岡豊照・悦子さん

1950年、日本で最初の学生油絵コンクール展としてスタートした「学展」。これまでたくさんの学生が応募し、参加してきた。そんな主役の学生たちを陰で支える指導者に贈られる「最優秀指導者賞」が、学展には存在する。66回目を迎えた今回、12回もの最優秀指導者賞を授賞した人物がいた。絵画教室「アトリエ一番坂」を開き、たくさんの生徒たちを学展の入賞へと導いている舘岡豊照・悦子さんご夫妻だ。2人は川崎市岡上を拠点に30年以上教室を開いてきた。授賞式後、最優秀指導者賞常連の舘岡さんご夫婦に、今に至るまでの話をお尋ねした。

絵を完成させる達成感

─ 12回目の最優秀指導者賞を受賞、おめでとうございます。今、どんなお気持ちですか。
ありがとうございます。やっぱり、うれしいですね。一番最初にもらったのが30年近く前で、そこから今だに授賞できているのはありがたいですね
─ 30年前と現在では子どもたちの絵は変わりましたか。
技術は今の方が全然あるんですが、昔の絵は粗いんだけど元気でパワーがありました。今の子は静か。豪快な子がいないから、楽ですけど。まあ絵描きって室内で独りで描くから、陰気臭いもんなんです(笑)。でも教室は明るいですよ。
─ 子どもに絵を教えるとき、どんなことに気をつけているのでしょうか。
やる気や絵に向かう気持ちを大事にして教えるようにしています。まず絵を描く際に自分の絵の完成形を意識させるんです。どんな絵が描きたいかをちゃんと自分で理解し、私たちは子どもたちが描きたい絵を描くための手助けをする。私たちもそうやって子どもたちと絵を通して達成することの面白さを学んでいます。あとは、やはり褒めてのばすことです。
─ 絵を完成させるまでにどのぐらいの期間を費やすのでしょうか。
教室に来たらすぐ描いて一日で完成とはいきません。大人でも絵が完成するまでに時間が掛かりますし、子どもだと約3か月は掛かかります。子どもにとって3か月の期間は結構長いんです。季節は変わるし、最初猫かぶっていた子たちも変わってくる。教えていると、生徒の感性も変わってくるのが分かります。

はじめての学展、いきなりの入賞

─ 多摩美術大学卒業後、高等学校の美術講師となった豊照さん。学校では泊まり込みで美術を教えたり熱心に美術教育をするも、他の先生たちと意見が合わず退職してしまう。そんな中、小・中・高の講師をしていた悦子さんに子どもが出来、仕事を辞めた。収入に困った豊照さんたちは渡仏する友人に絵画教室の指導を引き継いだことが、アトリエ一番坂開校のきっかけだった。
最初は大変苦労しました。数ある習い事のうち、人口が一番少ないのが絵なんです。ピアノやバレエのような人気はない。でもなんとか文化的価値を底上げしたいと思ってました。木枯らしの吹きすさぶ中、生まれたばかりの子どもをおぶって、今はダメですが電柱に宣伝ビラを貼ってなんてこともやっていました(笑)。そうしたらそのうち、教室の評判が聞こえてきたんです。
─ 学展への出品の経緯を教えてください。
あるとき、ひとりの生徒の親御さんから「毎回描いているだけじゃつまらないから公募展にチャレンジしたい」と学展のちらしを持ってきたんです。子どもたちを賞レースに出品するのは、正直自信を喪失させるかもしれないという懸念もありました。でも学展に出してみると、いきなり3人の入賞者が出て、今度は入賞を目標にする子もできて、私たちにとっても勉強になったんです。

コミュニケーションの重要性

─ 豊照さんに一日の過ごし方を聞いた。豊照さんは画家も兼業していて、午前中は自分の制作に充て、子どもたちが教室に来るのは午後3時半過ぎから。子どもだった生徒が学校教育を終えて、社会人になっても教室に学びに来る。学校の先生よりも付き合いが長く、家族のようだとうれしそうに話してくれた。豊照さんたちはどのように、子どもたちと接しているのだろうか。
当たり前ですが、生徒にはそれぞれ個性があります。大勢あつめていっぺんに教えれば楽なんだけど、ひとりひとりにしっかりついて教えるんです。それは体力的にキツいけど、絵を好きになってもらいたい。就職してからでも絵は描けるし、理想は、生涯絵を描くような人が育てられればと思うんです。
─ 教えるのが難しい年頃とかはありますか。
やっぱり思春期に入る中学生ぐらいが難しいですね。多感な時期だから、来るたびに気持ちが違うのね。女の子なんてみんなコロコロ変わるから悩みを解決しようと話を聞いてあげると、「もうその話題は解決した」と言われちゃったり(笑)。絵を描きながら日常の話を聞きながらやっています。会話を聞いてあげると、子どもたちの気持ちが楽になったり、絵を描くときのケアになるんです。どうでもいいことのようで、実はすごく重要なことなんです。
─ 教室へはどのぐらいの人数が教わりに来るのでしょうか。
だいたい1クラス20人ぐらいで、時間帯はバラバラで来るという感じ。生徒は幼稚園から社会人までと幅広いんです。小さい子も聞いていないようで、大人たちが会話するのをじっと聞いて学んでいます。だからコミュニケーションする場というか、銭湯ってあるでしょ、お風呂屋さん。いろんな人が風呂場で他愛もないことを話して情報交換します。そんなお風呂屋さんを思い浮かべてもらうと、アトリエ一番坂がイメージしやすいかもしれないです。

描くだけに終わらず、人に見せることを

描くだけに終わらず、
人に見せることを

─ 舘岡さんたちは会場でもたくさんの生徒に囲まれ、授賞式後の会場でも入賞した生徒と喜びを分かち合っていた。たくさんの生徒たちに信頼される豊照さんと悦子さん。2人にこれから指導する上で、教育の目標についてお尋ねした。
遊びとして絵を描くのも良いですが、自分と向き合って絵が描ける子。自分の描きたい絵にちゃんと答えを見つけ出すお子さんを待っているんです。継続して絵を描いていける方を待っています。
─ 絵の上達で必要なことはなんですか。
毎年、新百合ヶ丘にあるマプレ専門店街通りで「こどもの油絵野外展」という手作りの展覧会するんですが、絵は描くことだけじゃなくて、発表することが大事なんです。これまで、ステンレス工場、鋳物工場、デパート、酒蔵、水族館などいろんな所で展覧会をしてきました。高校生がリーダーになり、子ども達が一生縣命アイデァを出して、手作りの展示をしています。
─ 最後に若きアーティストにメッセージをいただけますか。
絵は自分の世界を発表する場なので、自らなにか良いアイデアを持っているならすぐに行動に出ることです。どうやって発表してどうやって伝えたらいいかを考えながら。ひとりでもいいから絵を見てもらった方がいい。最初は恥ずかしいかも知れないけど、人に見せることが大事です。また絵画も誰かが社会的な位置づけを付けてくれないとダメだと思うんです。自分にはそういう使命があると思っています。絵画の応募数が減ってくると、世間では絵画の社会的価値が下がったという認識になるので、学展がさらなる文化的向上を志すならば、必死になってついていきます。
PROFILE

舘岡豊照・悦子
TOYOTERU ・ ETSUKO / TATEOKA
川崎市、横浜市、町田市を中心に活動する絵画教室「アトリエ一番坂」を開校し、
現在も多数生徒に教えている。学展での最優秀指導者賞を12度受賞している。