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ART TALK Issue1

ART TALK Issue1

ART TALK Issue1

ART TALK Issue1

1950年に設立した学展。半世紀以上の時のなかで、世の中のアートシーンの移り変わりや出展作品の変化などを通して、新しい表現や価値観が生まれる様子を目の当たりにしてきました。分野の垣根を越え、アートとの接点が広がり続ける今、それを取り巻く環境は少し複雑になってきているようです。
『ART TALK』では、学生から大人まで、年齢や職業に関係なく “今、アートと関わっている人”をゲストに迎え、アートについて語り合うコンテンツです。現代のアートシーンを作る人たちのリアルな声を発信していきます。

記念すべき第1回目は、ギャラリストとして『村上隆』や『奈良美智』の名を世界に広めた小山登美夫さんと第66回学展大賞受賞者の水野幸司さん。小山さんがオーナーを務めるアートギャラリー『小山登美夫ギャラリー』を訪れ、熱いトークを繰り広げました。

描き、深まっていく作品と自分

水野さん
(以下敬称略)
はじめまして。本日はお会いできてとても嬉しいです。かなり緊張していますが……どうぞよろしくお願いします。
小山さん
(以下敬称略)
こちらこそ、今日は楽しくお話しできたらと思っていますよ。どうぞよろしくお願いします。
水野さんは、今高校3年生か。学生生活はどう?
水野
高校卒業後は美術大学へ進学したいと思っていて、いま大学受験に向けてデッサンの勉強を頑張っています。
学校では理系の進学クラスにいるので、周りからは少し浮いているかもしれないです(笑)。
小山
理系なのか、珍しいね! 芸術系の学校へ進学希望の人って、大抵文系に進むよね?どうして理系なの?
水野
高校1年生のときに見た『ダリ展』と映画『シンゴジラ』の影響が大きかったと思います。両方とも、理系・文系クラスのどちらに進むかを悩んでいたときに見たんです。ダリ展で西洋の科学文明や芸術の話に感化されて、シンゴジラでは劇中に登場する生物学者や物理学者に興味が湧いて、自ずと理系へと気持ちが向くようになりました。高校に入る前から絵を描くのが好きで、大学でも絵を学びたいと思ってはいたのですが、正直なところ美大って何を勉強するのかよくわからなくて……。とりあえず、美大に行く行かないは関係なく、高校で何を勉強したいかなと素直に考えると、理系に関心があったという感じでした。
小山
なるほど。それはいい選択かもね。ちょうど今、うちのギャラリーで展示しているアーティストも、数学とか勉強してる理系の人。感覚的な面に頼らず、理論的な側面でも発想できることはすごくいいことだと思うよ。水野さんは、いつもどういうプロセスで作品を作っているの?
水野
最初から、言葉でコンセプトを決めて描くというやり方は苦手なのでしません。作品を描く途中で、言語化されていなかった自分の考えが造形言語みたいな感覚で形作られていくんです。描いているうちに、考えが深まったり、気づきがある。自分が何を考えていて、何を知りたいのかが明確になっていない人間なんです。だからとにかく手を動かします。そうすると、自分の考えがまとまったり、新しいアイデアに出会えたりします。
小山
いいね。作品のコンセプトが大切という側面もあるけど、コンセプトをなぞっただけの作品より、水野さんみたいにアーティストの考えが動きながら描かれた絵のほうが僕は面白いと思うね。

今の世界に生きる人がつくるもの
そのすべてが現代アート

水野
小山さんの書籍もいくつか読ませていただいたのですが、学生時代にたくさんギャラリーに通っていたと書かれていて、「僕と一緒だ」と勝手に親近感を抱いていました。
小山
ギャラリーってさ、なんといってもタダだからいいよね(笑)。しかも有名なアーティストが在廊してたりさ、面白い場所だと思うよ。今は自分自身が“ギャラリスト”としてギャラリーを運営しているけど、僕らの仕事って、ギャラリーの中でアーティストの作品を人に発信して、それを見て「重要だ」「好きだ」と感じた方に売るということなんだよね。僕は、アーティストが作品を作るときに体験したことは、作品を通して見る人に伝わると思っている。だから僕は、アーティストの作品をギャラリストが世の中に発信することで、アーティストが体験したもの(=作品)を、見る人に面白がって買ってもらうということをしているんだと思うよ。
水野
ギャラリストって、作品を売る仕事というイメージが強かったのですが、触媒のような機能もあるんですね。
小山
そうそう。触媒的にギャラリーという機能がはいることで、世の中に拡がっていくイメージ。それによってアーティストが収入を得て生活できるようになる。自信を持ったりもできるしね。僕のしていることが、そういうことに少しでも繋がれば、と思ってる。 現代アートの定義って、所々で異なるし少し曖昧な気がするけど、僕は現代に生きている世界中の人が作るものは、すべて現代アートだと思う。ギャラリストとして世に発信する作品を選ぶときは、『現代人が作っている面白い作品』という観点で選ぶようにしている。自分にとって面白いもの、という主観や既成概念には捉われないように気をつけながら、作品と向き合うようにしているね。

明日、個展をやれ

小山
水野さんはこれからもっと絵を学んで、作品を作り続ける道を歩もうとしていると思うんだけど、アーティストとしてどうやって社会に出て生きていきたいとか、何か今後のイメージはある?
水野
うーん、現実的な話として、絵で食べていきたいという考えは全然ないんです。1~2年前ですけど、アート自体が意味のあるものかどうか、よくわからなくなった時期もありました。学校教育でも芸術科目削減の動きがあるし、世の中の風潮として、お金になるか、効果があるかの判断軸で、今必要のないものや、理解できないものは捨てていくような印象が強かったんです。
小山
確かにそうだね。ビジネス界にアートは必要かどうかという流れもある。これまでの芸術家が様々な角度で物事を見てきた結果、それが新しい文化やアイデアに繋がっている部分もあると僕は思う。それに科学者でも音楽や美術が大好きな人は多いし。そういったことを考えると、社会へ何も貢献してないと片付けてしまうのは、まずいことだと思うね。
水野
そうなんですよね。僕もその後色々と考えたのですが、役に立たないと思われるものを無くしていくことは、意味がないというか、貧しいことだと思うようになりました。それがいつどこで役に立つのかはわからないけど、いろんなものがあった方が豊かな社会だと。僕は、アーティストとしての最低条件であり、重要なことというのは、作品を発表して、それが誰かの目に触れることなのかなと、今は思っています。
小山
水野さんが言うように、アーティストは作品を作って、人に見せることが基本だし、見せる状況を作るということが大事だね。それがどう受け取られるかはまた次の話。ちなみに水野さんは、明日個展やれっていわれたら出来ると言えるくらいの作品を持ってる?年間でどのくらい描いてるの?
水野
いえ、大きい絵自体は年間で1つ2つくらいですね……。
小山
村上隆さんの本の中に書かれていたんだけど、大ファンの大竹伸朗さんに話しかけたときに「お前は明日個展をやれと言われたら、できるだけの作品を持っているのか」と聞かれたことがあるんだって。やっぱり作品はある程度たくさん描かないとだめなんだよ。自分はこういう絵だ、という型にハマりすぎるのもよくないけど、作品数を増やすという意味では、同じようなテーマでいくつも描いてみるというようなやり方もいいと思う。イギリスの現代アーティスト、ダミアン・ハーストは『ドットペインティング』という発想で、作品を量産することも作品のコンセプトに含んでいたりするしね。数があってこそできることもある思うから。

社会と対峙するアート

水野
最後にお伺いしたいのですが、ギャラリストという立場からご覧になって、アーティストが作品を作る上で大切なことはなんだと思いますか?
小山
作品を作って見せるということが一番重要。あと作品に “作った時のリアルな感じ”がちゃんとないとダメだと思うんだよね。アーティスト自身にとって何が面白くて、それが社会のなかでどういう意味をもつのか。そういうことを考えて作っていかないとダメだと思うね。「売ろう」とかそういう気持ちではなくてね。せっかくだから、水野さんの今後の意気込みを聞いて終わろうか。
水野
小山さんとお話しながら、自分が今生きている時代と向き合って、それを作品に取り入れていきたいと思いました。今の社会とか時代から完全に浮遊したような絵を描くのも悪くないですが、そこから逃げずにというか、しっかりピントを合わせて、考えながら作品を作っていけたらと思います。
小山
頑張れ!とりあえず作品を作ろう(笑)。
水野
そうですね(笑)。今のままだと少なすぎるので、作品をたくさん作ることが目的にならない程度に、頑張ってみようと思います。今日は楽しくお話ができて嬉しかったです! 貴重なお時間をありがとうございました。

対談を終えて

水野
お会いする前は、本当に緊張して体が固まっていました(笑)。話せるか不安に思いながら今日を迎えたのですが、小山さんの明るいお人柄のおかげで、リラックスしてお話できました。ギャラリストという仕事に対する理解も深まりましたし、とても勉強になりました。
小山
水野くんは、論理的な思考と感覚的な部分のバランスがよくて、両面的な発想ができるタイプの方だと感じましたね。これからももっとたくさんの作品に触れて、多くのことを吸収して、更に作品に磨きがかかっていくことを期待しています。

PROFILE

小山 登美夫
TOMIO KOYAMA

1963年生まれ。東京藝術大学芸術学科卒業。株式会社小山登美夫ギャラリー代表取締役。明治大学国際日本学部特任准教授。
西村画廊、白石コンテンポラリーアート勤務を経て、1996年に小山登美夫ギャラリーを開廊。奈良美智、村上隆をはじめとするアーティストのプロデュースや国外アーティストを日本に紹介する国内屈指のギャラリスト。主な著書に『現代アートビジネス』(アスキー新書)、『何もしないプロデュース術』(東洋経済新報社)、『見た、訊いた、買った古美術』(新潮社)など。

水野 幸司
KOJI MIZUNO

2000年生まれ。駒込中学校高等学校在学中。2016年『百鬼夜行』が第66回学展大賞を受賞。2017年には文化、スポーツ等の全国大会、コンクール等において最優秀の成績を収め理事長の推薦があった生徒に贈られる、一般財団法人 東京私立中学高等学校協会主催 協会表彰を受賞。同年2月にはフランス・パリにある日本文化展示施設MaisonWaにて作品を展示を行う。

2018年度の出展作品 >